プロジェクション・フィルム(仮)

いろいろ考えたことを言語化して焼き付けておくためのブログ。話題は研究・身体・生活から些細な日記まで雑多に。ほぼ毎日21時更新です

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数理モデル研究は楽しい

こんばんは、mulfunctionです。

 

高校時代、私は全科目の中でも物理が一番好きでした。高校物理は内容が限られていることもありますが、いわゆる公式の数が少なく、「そういう風にできている」という仕組みを感得さえしていれば、どんな難しそうに見える問題も解析できるところが好きでした。

大学入学時は、大学で更に高度な物理を勉強して、この世界の成り立ちを掴みたいと考えていました。当初は理学部に入るつもりでしたが、紆余曲折あり、心変わりして工学部に入りました。進学後、勉強をサボっていたため、純粋物理をやるのが大変だったという理由もありますが、机上の理論研究よりは、なにか社会実装につながる応用研究がしたいと思い、進路を工学寄りに変更したわけです。

工学部の中でも電気回路から物理実験まで色々な経験ができましたが、特に面白かったのは数値解析系の講義でした。元々、中学校でC言語を覚えてから、プログラミングすること自体が好きでしたが、計算機実験という実験方法に出会い、「寝てる間に実験が進んでるなんて素晴らしい!」と物ぐさな思考をしたのでした。

 

 

 

数値実験はプログラムを書いてコンピューターの中で実験するわけですが、プログラムを書くためには、まず元となる数理モデルが必要になります。解析したい現象を、プログラム内で表現可能な手続きレベルに抽象する必要があるということです。

逆に言うと、数理モデルを立てさえすれば、(計算量の問題はさておき)計算機をひたすら回すことで、何らかの結果は得られるということです。しかも、一度プログラムを書きさえすれば、実験自体は計算機が行ってくれるので、その間自分は違うことができます。

そう考えると非常に楽な手法のように見えますが、現実社会で起こった現象そのものを扱っているわけではなく、あくまでその"現象”は計算機の中だけでしか起こっていないので、得られた結論が妥当かどうかの評価は、ひとえに数理モデルと議論の質に掛かってきます。価値のある結論を得るためには、筋の良い数理モデルが必要です。

この「筋の良い」数理モデルを構築するというのは、非常に知的かつおそらくセンスの問われる作業で、とてもやりがいがあるものだと思います。大学院では計算物理の研究室に進み、数理モデル研究に明け暮れるなかで半分うつになるくらい苦労しましたが、数理モデルに対する興味は増す一方でした。

 

物理屋というのは、おそらく世間の人が思う以上に、自分たちの興味対象を全く制限していません。そもそも「物」の「理」を探求すると言っているわけで、定義が非常に広範なわけです。高校物理で出てくるような、ボールを投げ上げたら、といったような問題は、あくまで物理の一分野でしかありません。

この世界で起こっている現象をモデル化し、そこに何らかの法則性を見出して、仕組みを納得することが物理屋の目的です。特に、別々の現象だと思われていたものに、共通の法則性が見出されると、この世界の仕組みの根底に近い部分に触れたようで、非常に嬉しい気持ちになります。

そんなあらゆる現象にアンテナを向ける物理屋ですので、いわゆる文系科目・社会学系といわれているような研究分野に乗り込んでいくことも、全く不思議ではありません。初めは交通、そして経済と、物理現象とのアナロジー数理モデル表現のしやすそうな分野から始まり、そして多体複雑系の代表である人間系へと、その研究対象は広がっています。

 

私は今、社会系のモデリング、特に人間系の数理モデル研究に取り組んでいるのですが、非常にエキサイティングな分野だと思っています。複雑な人間を数理モデルに落とし込むためには、思い切った抽象と、人間に対する洞察が必要で、難しい作業です。しかしながら、周囲の人々を観察し、法則性を見出そうと頭を働かせることで、「ああ、人間って実はこうなのではないか」と様々な仮説が生まれ、人間に対する理解が深まっていく気がします。

そもそも、人間をモデル化する上で一番観察しやすい対象は、私自身です。自分自身とはいえ、考えていることを100%キャッチすることができるわけでもありませんが、色々と都合のいい実験体であることは間違いありませんし、考察を通じて自分というものが理解できていくのは面白いことです。

 

結局、「仕組みが分かると面白い」という根本は、高校時代に物理を面白いと思っていたときから変わっていません。ただ、仕組みを考える対象が、より複雑な社会系に移ってきただけということです。

一見複雑なものでも、分かってしまえば非常にシンプル。そんな物の理を見つけるべく、今日もいろいろ考えています。

 

それでは、また。

/mulfunciton