プロジェクション・フィルム(仮)

いろいろ考えたことを言語化して焼き付けておくためのブログ。話題は研究・身体・生活から些細な日記まで雑多に。ほぼ毎日21時更新です

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掛け算の順序問題について思うこと

こんばんは,ゴドーです。


算数教育において,掛け算の順序がしばしば問題になりますね。

実際の教育現場について詳しいわけではありませんが,Twitter等で見かける情報によると,文章題において掛け算の順序を逆にするとバツをつけられてしまうようです。

ご存知の通り,掛け算は掛ける数と掛けられる数の順序を入れ替えても積は同じ。

計算で得られた数字は同じでも,掛け算の順序が違うと誤りとされることに,学者を始め色々な人が意見をしていますね。

https://twitter.com/tententonton2/status/1197675307873890306


この問題に関して,個人的な意見は以下の通りです。

  1. 掛け算の順序によってバツをつけることは間違い
  2. しかし,掛け算の順序を気にかけることはよいと思う

というのは,掛け算の順序を意識することは,単位量を意識することに他ならないと思うからです。


「単位量」という言葉は,算数の教科書にも登場する言葉です。

例えば,上に引用したツイートにあるような,飴が「1袋あたり7個」というのを,算数では単位量あたりの大きさとして習います。

「単位量あたり」というのは「1あたり」と言い換えてもよく,要はある単位1つあたり,他の量がいくつあるかを表す量のことですね。

物理のように数値に単位がくっついた学問をやっていると,例えば X m/s=1秒あたり X メートル,Y C/m^2= 1 平方メートルあたり Y クーロン,といったように,単位量あたりの大きさは頻出します。


この「単位量あたりの大きさ」という考え方は,小学生が算数でつまづきがちな「割合」「速さ」に直結する考え方です。

上述のように,速さというのは単位時間あたりにどれだけの距離を進めるかという「時間単位量あたりの距離」です。

また,割合の問題で「A は B の X 倍」と表しているのは,正に「Bを単位量としたときのAの大きさ」のことなのです。

「単位量あたりの大きさ」という概念を理解することで,小学校高学年で習う算数も容易に理解できますし*1,より抽象度の上がる中学高校での数学や,単位系を伴う物理や化学にもスムーズに入っていけるでしょう。

「単位量あたりの大きさ」を小学校の間にマスターしておくことは,非常に重要なのです


話を掛け算に戻すと。

例えば引用ツイートの問題であれば,7という数字は[個/袋]という単位を持っており,4という数字は[袋]の単位を持っています。

そして,ここからは自分の「感覚」の話なので,特に反論がありうる部分ですが,これらの単位を意識すると,掛け算の順序は7×4=28とする方が「自然」だとではないでしょうか*2

つまり,7×4=28という式には,7[個/袋]が4[袋]分というストーリーが現れているように感じるのです。

同様に50[km/h]で2[h]走ったときの距離は,1[h]あたり50[km]進むものが2[h]分だけあるということで,50×2=100という式が自然だと感じます。


これは感覚の問題なので,もしかしたら逆順の方が「自然」だと感じる人もいるかも知れませんね。

それはそれで個人の「数学感覚」の問題であり,数学的な妥当性を論じられる領域では(おそらく)ないので,どちらの順序でもよいと思います。

掛け算の順序で,どちらを前に書くかは,思想の自由です

ですので,上の個人的意見の1に上げた通り,「掛け算の順序によってバツをつけることは間違い」だと思うのです。


一方で,掛け算の順序が個人の中で統一されていないのは「単位量あたり」の概念が身についていない可能性があると思います。

問題によって立式の順序がコロコロ変わる子供は,自分なりの「単位量あたり」の感覚を式に落としているのではなく,もしかしたら文章中に出てきた数字を適当なルールで掛け算しているだけかもしれません。

例えば,文章中に出てきた順に掛け算すると行った感じに。

小学生に教える先生は,数値の順番を様々入れ替えた文章題でテストしてみて,生徒が「単位量あたり」をしっかり会得しているか見極める必要があるでしょう。


「単位量あたり」の概念を抑えないまま掛け算の文章題を解いていると,将来的に算数や数学で困ることになるでしょう。

例えば複数の数字が同時に登場する複雑な問題では,どの数字とどの数字を組み合わせていいか分からず,手も足も出なくなる恐れがあります。

高校化学で習う「モル計算」も,単位量が分かっている人間にとっては至極簡単なのですが,塾講師生活の中で,ここでつまづく高校生を何人も見てきました。

そういう生徒を注意深く見ていると,やはり掛け算の順序を意識していないケースが多かったように思います。

なので,「掛け算の順序を気にかけることはよい」と思っているわけですね。


単純な計算としての掛け算は,前後どちらを先にしてもOKですし,計算しやすい順序で計算した方がよいでしょう。

例えば「1袋7個入の飴を13袋買う」だったら,7×13よりも13×7の方が容易に暗算できますね。

しかし,最初に式を立てる上では,単位量を意識して「7×13」と書くべきです*3

単位という数値の意味を考える必要がある立式パートと,式を処理して簡単な値に直す計算パートは,それぞれ分けて考える必要があると思います


掛け算の順序問題に限りませんが,子供により本質的な理解を与えるためにはどうするべきか,という目的意識で考えることが大切だと思う次第です。


それでは,また。

/ゴドー

*1:むしろ,単位量を理解しないと高学年の算数は分からないと言った方が適切かもしれません。

*2:ここでの「自然」というのは,数学的に自然だという意味ではなく,あくまで自分の感覚として自然だという意味です。

*3:再三ですが,この順序は自分にとっての「自然」なので,逆の「自然」を持っている方は「13×7」と書くべきです。要は,その方は「1袋12個入りの飴を5袋買う」の場合も同じ「自然」に従って「5×12」と書いてくださいね,ということです。