プロジェクション・フィルム(仮)

いろいろ考えたことを言語化して焼き付けておくためのブログ。話題は研究・身体・生活から些細な日記まで雑多に。ほぼ毎日21時更新です

MENU

進化しすぎた脳

こんばんは,ゴドーです。


図書館で借りた脳科学の本がとても面白かったです。

タイトルは『進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線』。

東大薬学部教授の池谷裕二先生がタイトルにもある通り中高生相手に集中講義した内容をベースにした本です。


神経の話から始まり,認識,意識,心,記憶,感情といった興味深いテーマについて語られています。

最先端の(発刊は2004年ですが)研究成果に基づく話がポンポン出てくるのは,さすが最前線を走る研究者ならでは。

様々な動物実験に基づく議論は,脳という複雑で捉えがたい存在の輪郭だけでも理解するのに大いに役立っています。


講義をベースにしているので,文章が語り口調なのでスイスイ読めますね。

中高生向けの講義ということで,特に専門知識がなくとも楽しめます。

一方で,内容が子供向けだとか薄いということはありません。

むしろ,示唆に富んで非常に面白かったです。


個人的に一番興味深かったのが,生まれ持った身体や環境に応じて脳自体が自己組織化していくという話。

よく「人間は脳をほとんど使えていない」と聞きますが,その原因として,生まれ持った身体がシンプルすぎるという理由があるのかもしれません。

本文中にも「指が20本あったら,それに対応した脳の変化が起こり,自在に操れるようになるだろう」というような話がありました。

人間の身体が枷となって,脳は十分ポテンシャルを発揮できていないだろうというのが,タイトルの『進化しすぎた脳』なのですね。

伝統太極拳などで身体感覚を探るトレーニングを行っている自分としては,非常に興味深い話題でした。


この話が面白いと思うのは,身体性を拡張できたら,それに応じてこれまでの人類にはなかった脳の変化が起こりうるということです。

たとえばVRを使って仮想のものや物理的に遠く離れたものを動かしたり触ったりしたりする技術,テレイグジスタンスといいますが,こういう技術が発達した社会では,脳の使い方が今とは異なっているのかも。

デジタルネイティブ世代といってもまだアナログ時代と地続き感がありますが,技術による身体性へのハックが当たり前になった世代の子供たちは,今の我々とは脳の機能が異なるかもしれませんね。

ビデオゲームに没頭していると,操作しているキャラクターの身体性をまるで自分のことのように感じる瞬間がありますが,もしかしたらこれも1つの脳の変化なのかも。


これ以外にも様々なトピックが取り上げられており,きっと誰しも刺さるポイントがあるはずです。

かなりオススメな本でした。

/ゴドー